記憶が飛びまくる。

 父の記憶はやはり飛びまくっている。記憶が抜け落ちている所を私が説明すると、なんでそんなことを知っているんだと、変に突っかかってくる。こっちはアンタがぼけてからずっと日記をつけているというと、そうか、と妙に神妙になる。とにかく、時間の感覚がひどいというのもあるが、問題はその時間の感覚の劣化をカバーするためにメモを取るという作業が余計に父の中で混乱を引き起こしている。

 今日は土曜ということもあって、大人しかったが、突然、くすりがきれてしまったと、なんか騒いで、先週、自分は病院に行かなかったのかと私に聞いてきたので、父親が当初は薬が切れたため、病院に行くと言っていたくせに、行くのを面倒くさがって、結局行かなかなかったことを話した。その際、この薬はビタミン剤みたいなもので、すぐに必要というわけではないから、行かなくても問題は無いと私に話したことも付け加えた。そうしたら、そんなことを言った覚えはない。この薬はないと困るのだという。

 そうであるなら、週明けに病院に行った方が良いと私が言うと、父は素直に従った。そして、家の大きなカレンダーに父のここ一月の日程を父自身の手で全部書き込んでもらった。父自らの手で書かせないと、すぐ自分の字ではない、俺はこんなことを書いた覚えはない、自分の予定ではないと、必ず変ないちゃもんをつけてくるので、何度も言うが、自分で書かせるのが重要なのだ。

 問題は、父の手元にある手帳である。本当に書くスペースが小さくて、ゴチャゴチャしている。これでは、見づらくなるのも無理はないのだ。前にもこんなことを書いた気がするが、やっぱり私が新しいメモ帳を買ってきた方が良いのだろう。とはいえ、父の本当の問題は、メモを書いた時点でのメモを取る意図をすっかりわすれてしまっていることである。父は「なんでこんなメモを取ったのか?」みたいなことを頻繁に呟く。

 少なくとも、このメモ帳の記述をカバーするものとして、我が家の冷蔵庫の磁石で貼り付けていいるカレンダーはとても重要な位置を占めている。父の外部頭脳のようなものになりつつある。