働く父

 働くと言っても、家の事である。昨日は、父は大人しくしていた。雨も降っていたということもあるのであろう。終日家にいて、例えば布団を畳んだり、段ボールを解体したり、洗濯物を畳んだりしていた。前にも書いたが、こうした日々の家事から派生した仕事などは無く(もちろんこうした仕事が重要であることは言うまでもないが)、自分の意思で自分のやりたいことを見つけて取り組んで欲しいのだが、そんなものは何もないようである。かっては仕事の他に読書や語学の勉強をせっせとしてたのだが、今はテレビをダラダラ見ているか、元の職場の同僚に電話攻勢を仕掛けるくらいである。そしてものを食べること、おしっこを捨てることくらいだろうか。悲しいくらい動物みたいな生活をしている。いや、動物に失礼かもしれない。動物だって日々のサバイバルのためもっと頭を使っていると思う。今の父が頭を使うことは元の職場にどうやって行くかぐらいである。昨日も改めて、夕食時に父に何でそんなに元の職場に行きたいんだ。引退したんだろう?と尋ねると、父は、行きたいわけではないとか、なんか心配なんだとか、色々言い返してくる。「既に代わりの人が仕事をしている」と私が言っても、それは分かっていると答える。私が深層心理でどうしても行きたいからそうやって執着するのだと言い、重ねて、私は、もう精神科で一度見てもらった方がいい、殆どストーカーと変わらないと言うと、父も愁傷に「そうなのかもしれない」と珍しく肯定する。ただし、これは別に父が私の意見に納得しているのでなく、父は、私とのこの不毛な話を早く打ち切りたいだけなのだろうと思う。そんな会話が昨日の最後の父との会話であった。